海を渡ったサムライママ、香純恭の殺陣師な日々。

ニューヨークを拠点に、殺陣とアクションの道場を開設している、殺陣波濤流NY代表の香純恭が、殺陣とアクションやエンターテイメント、アメリカの教育等、殺陣師そして3児の母の視点から持論を展開していきます。

2019年 6月 28日更新

第3回 : 一流アクション俳優の条件とは?

映画『ファーストサムライ・イン・ニューヨーク』での撮影現場。

皆様、こんにちは。NYの殺陣師、サムライママこと、香純恭(かすみきょう)です。最近はいろいろな場所で「サムライママですよね?!」と声をかけられるようになり、びっくりしています。まぁ、毎日道着を着て刀を何振りも担いで歩いているので、無理もありません。

さて、今日は俳優さん向けに現場で生かせる殺陣のスキルについてお話したいと思います。最近は、スタントマンでなくても、相当のアクションスキルを持った俳優さん達が軒並み増えて参りまして、ある程度のアクションシーンでしたら、俳優の皆様ができてしまいます。言い換えると、俳優さんは、キャスティングの段階で、殺陣やアクションができるのかを問われることが増えてきたということです。

現場のアクション・殺陣に必要なこと

日本の総本部での稽古風景。カメラポジションを意識し、死ぬ位置まで考えて倒れます。

では、アクションや殺陣ができるとは、どういうことなのでしょうか?殺陣でいえば、もちろん、抜刀や納刀ができることは言うまでもありませんが、相手と組んで間合いやタイミングを合わせて動けることもとても大事です。刀を携えた着物の着こなしや、歩く、立つ、座るなどの所作も大事なポイントになりますね。

そして、さらに大事なこと。それは、カメラワークが分かっていることだと思います。もともと、ワンシーンのみの出演だった俳優さんが、高度な技術に加え、カメラワークを理解して動いていると評価され、どんどんカメラ前の役になり、結局死なずに何シーンも出ることになった、というのはよく聞く話です。一方で、その逆もあり、俳優さんがカメラワークを理解せずに、アクションまたは殺陣をすることで、うまいカットが撮れず、せっかくのアクションシーンを、ほとんどプロのスタントさん、または相手側向けのカットに変更されてしまったという現場にもたくさん遭遇します。ですから、私の道場では、スキルもさることながら、常にカメラポジションを意識して動く癖をつける練習をしています。

武道歴は必要か?

波濤流NY道場での稽古風景。鯉口(鞘の入り口)で、待ち指(刀を指で挟みながら鞘に納める)をしないように指導しています。

さて、この仕事をしていると、必ずと言っていいほど聞かれるのが、何の武道(マーシャルアーツ)をされているのですか?という質問です。殺陣や技斗(アクションのこと)は、マーシャルアーツではなく、パフォーミングアーツです。つまり、相手のために、どれだけ自分が表現してあげられるか、タイミングを合わせてあげられるか、間合いを調整してあげられるか、それに尽きるのです。

例えば、俳優さんに、「これを仕込んで下さい(付けてください)」と言ってサポーターを渡しても「いや、僕は大丈夫です」と断られる時があります。これは、大きな間違いです。サポーターは、もちろん自分の体を守るためでもありますが、同時に、相手の体を守るためでもあるのです。なので、もし現場で殺陣師やアクション・コーディネーターにそう言われたら、必ず装着してください。

そして、リアクションも相手のためです。以前、日本を代表する大ベテランの俳優さんと対談した際、その昔、芯(中心となって動く人)は、絡み(斬られ役)の俳優さん達に、本番前にチップを渡していたのだとか。そうすると、本番は盛大に、そして芯の人を引き立たせるように斬られてくれたのだそうです。この対談はのちに流れてしまいましたが、大変驚き、そしてすごく腑に落ちる話ばかりで勉強になりました。

自己流は危険!殺陣とアクションはプロに学べ!

俳優業をやっていくには、確かに多くのスキルが必要になります。特に、殺陣やアクションのスキルは、大変に奥が深く、自己流ではとても危険で、大抵の場合、自分ではなく相手を怪我させてしまいます。映画や舞台で使われる殺陣やアクションは、決して勝敗を決めるものではなく、相手のためにどう動けるかの共同作業であることを忘れないでください。パンチ一つの打ち出し方も、構える間合いも違うのです。リアルにやってしまうと、映像的には戦いの表現になりません。

どうぞ、皆さん、付け焼刃で現場に入るのではなく、日頃から、きちんとした信頼できるプロの方に習って、アクションまたは殺陣の現場に挑んでくださいね。

サムライママの独り言でした。ではまた次回に!

2019年 6月 28日更新

皆さんのご意見等ございましたら以下までご連絡ください。

tate@hatoryuny.com

Columnist's Profile

殺陣波濤流NY代表香純 恭(殺陣波濤流NY)

1995年 - 日本の芸能事務所ホリプロ所属。

1998年 - 本格的な殺陣とアクションの技芸を学ぶため、藝道殺陣波濤流高瀬道場に入門、主宰高瀨將嗣氏に正式弟子入り。徹底的に殺陣やアクションの技芸を学ぶほか、アクティング、カメラポジション、カメラアングル、礼節から日本の歴史に至るまで、あらゆる角度から指導を受ける。アクション、スタント、また女優として多数の映像作品や舞台に出演。

2012年 - 2度目の渡米後、2014年に殺陣波濤流NY道場を設立。

2015年 - NYにて本格的に殺陣師、アクション・コーディネーターとして映画や舞台のアクションシーンに携わり、翌年、アクション映画製作プロデューサーとしてユニオン映画制作を開始。初めてのプロデュース短編映画「First Samurai in New York」がLAのアルテミス・ウーマン・イン・アクション・フィルム・フェスティバルにて、武器を使ったアクション部門の最優秀賞を受賞。アカデミー賞に続く登竜門であるNY短編国際映画祭NYプレミア、ニューヨーク・ジャパン・シネマ・フェスティバル、アクション国際映画祭プレミア等、数々の映画祭に選ばれ、アメリカ日本人女性初の殺陣師、アクション・ディレクターとして快進撃を続ける。

2018年 - NY国連本部Peace is、メトロポリタン美術館、NYPD総本部等で演武を披露。

3児の母。NYのサムライママと呼ばれ、地域やメディアの間で親しまれている。

殺陣波濤流NY

Purchase, NY
EMAIL:
tate@hatoryuny.com

次回のコラム

COMING SOON
  • 第5回 : NYでがんばる俳優シリーズ2 これから海外で俳優をやるために。
  • 第6回 : アメリカアクション映画業界のホント。
  • 第7回 : 外でこそ、殺陣を。日本人俳優というだけで、何でもできると思われる。
  • 第8回 : 海外での子育てと仕事。
  • 第9回 : 時代劇小説を読もう! 習慣、所作から学ぶ先人たちの生きる力と思いやり。
  • 第10回 : アメリカの俳優ユニオン。メリット、デメリット。
  • 第11回 : スタントマン、殺陣師、アクションコーディネーター、何が違うの?
  • 第12回 : 海外で殺陣を広める意味。仲間の国には銃を向けたくない。