JMSA Science Forum運営メンバーが送る暮らしのコラム

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2018年 1月 3日更新

第2回 : がんとその治療薬

読者の皆さま、明けましておめでとうございます。今年も皆さまが健やかに過ごせる年となるよう、お祈り申し上げます。健康コラムの第二回目となる今回は、これまで大変多くの人を苦しめてきた病気、がんについて取り上げます。科学の進歩により、がんはどのようにして発生するのか、またどのような治療法が有効かなど、さまざまなことが分かってきました。本稿では、がんとその治療薬について概説します。

1. がんとは

がんとは「体内の細胞が異常かつ無制限に増殖してしまう病気」と言えます。日本では長年にわたり死因の第1位で、現在およそ2人に1人ががんに罹り、およそ3人に1人ががんのために亡くなっています。現在アメリカで、がんは循環器病に次ぐ第2位の死因ですが、向こう数年のうちに第1位になると予想されています。研究によって、喫煙や高脂肪の食事、いろいろな遺伝子の損傷などの要因が、がんを誘発することが分かっています。

生きていくために重要な肺や消化器などにがんが発生すると、それらの臓器が本来の役割を果たせなくなり、体が衰弱してしまいます。また、がん細胞が原発巣(最初に発生した場所)から他の臓器に移動して増える「転移」が起こると、移動先の臓器の機能も低下し、衰弱が一層ひどくなってしまいます。早期発見できれば、後述する治療法によって対処が可能な場合も多いので、治療法とともに検査法の開発も盛んにおこなわれています。

がんが見つかったら、がんの種類や進行の程度、患者の年齢や体力などを考慮し、治療法が決定されます。主に、手術で物理的にがんを切除する「外科治療」、放射線を当ててがん細胞を殺す「放射線治療」、薬でがん細胞を殺す「薬物療法」の3つがあり、これらを単独または組み合わせます(下記参照)。

がん治療法。患者さんやがんの状態に応じて、主にこれら3種類の方法を組み合わせる。
2. 薬物療法

前述の3つの治療法のうち、薬物療法は、投与された薬が血流に乗って全身をめぐるので、原発巣だけでなく手術で取りきれない転移性がんの治療にも適しています。以下、薬物療法で用いられる代表的な薬の種類について紹介します。

2-A 細胞障害性抗がん剤

がん細胞の活発な増殖を阻止する薬物です。「生命の設計図」ともいうべきDNA(デオキシリボ核酸)の働きを邪魔するプラチナ製剤、細胞の中で伸び縮みして細胞の生存や増殖を調節する装置の働きを止める微小管阻害薬などがあります。多くの種類のがんに使用されていますが、一般的に効果が低く副作用が強いという問題を抱えています。副作用には、吐き気・脱毛・下痢・白血球減少などがありますが、これらは主に、薬ががん細胞と一緒に健康な正常細胞も殺してしまうために起こります。そこで、より効果が高く副作用が少ない薬を求める声が高まり、次項の「分子標的治療薬」が開発されるようになりました。

2-B 分子標的治療薬

がんだけを狙い撃ちすることで正常細胞へのダメージを避け、副作用の低減を目指す薬です。がんの多くは遺伝子異常によるものですが、例えば車のアクセルのように細胞をがん化させる異常が遺伝子に生じてしまった場合、分子標的治療薬はこの異常に歯止めをかけてがん細胞を殺します。

さまざまな薬が開発され、中には一部の白血病や乳がんに大きな効果を示して患者さんを救っているものもあります。しかし承認された薬といえども、強い副作用を起こす場合が多々あります。さらに高い効果・低い毒性を達成すべく、例えば次項の免疫チェックポイント阻害薬などの新薬が現在盛んに研究されています。

2-C 最近注目の治療薬:免疫チェックポイント阻害薬

私たちの体には、体外から侵入してきた異物(ばい菌やウイルスなど)を攻撃して排除する「免疫」と呼ばれる仕組みが備わっています。主にリンパ球や白血球といった免疫細胞が攻撃役を担いますが、近年の研究によって、これらの免疫細胞ががん細胞を攻撃する能力も持っていることが分かってきました。ところが、がん細胞もさるもの。「自分は仲間だよ」と免疫細胞を騙して、攻撃にブレーキをかけてしまうのです。そこでこの「ブレーキ(チェックポイント)」を解除し免疫細胞の攻撃力を回復させる薬として、免疫チェックポイント阻害薬が最近開発されました。

既に、特定の皮膚がんや肺がんなどの治療薬として認可され使用されています。一部の患者さんには非常に効果が高く、がんが消滅した例も報告されており、画期的な新薬として注目されています。しかし、従来の抗がん剤に比べ価格が非常に高いこと、効かない患者さんも多く、効くかどうかを投与前に判定する検査法がまだ確立していないことなどが問題となっています。

3. 今後の治療薬開発

がんの治療薬開発においては、どのようにすれば副作用を減らせるか、治療費用を抑えられるか、投与前に薬の効きを予測できるかなど、重要な課題が残されています。一方で、遺伝子操作技術も近年目覚ましい発達を見せています。がん細胞で異常になった遺伝子を正常に戻したり、免疫細胞のがん攻撃力を高めるように免疫細胞の遺伝子を改変したりする試みが数多くなされており、中には既に認可されたものもあります。研究と並行して、遺伝子を改変することに対する倫理面での議論も深めていく必要性があるでしょう。これら新旧治療法の長所と短所を考慮した組み合わせ療法の開発を含め、患者さんを救うための努力が世界中で懸命に続けられています。

今回のコラムニスト
Department of Cell、Developmental and Regenerative Biology、Icahn School of Medicine at Mount Sinai 研究員 園下 将大(そのした まさひろ)

東京大学薬学部卒業、東京大学大学院薬学系研究科修士課程修了(薬学修士)、京都大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。同助教、同講師、同准教授を勤め、2013年9月から現所属。専門は腫瘍学、遺伝学、創薬学で、現在はがんができる仕組みの解明とそれに基づく治療薬開発に従事。

連絡先:masahiro.sonoshita@mssm.edu

2018年 1月 3日更新

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